2024年も多くの方を診察させて頂きました。その中で手術を受けて頂いた方のご報告をさせて頂きます。
2024年は白内障手術815件、網膜硝子体手術101件を実施致しました。
白内障手術の中で、乱視矯正用の眼内レンズを使用したのは332件(40.7%)でした。
白内障手術の中で、多焦点の眼内レンズ(保険適用のものも含む)を使用したのは183件(22.5%)でした。
白内障手術の中で、アイステント(緑内障治療用デバイス)手術を併施したのは80件(9.8%)でした。
ひと昔前までは、白内障の手術は濁った水晶体を透明な人工眼内レンズに取り換えて、見やすくするといったことが基本的な目的でした。ただ技術の進歩した現在では見やすくすることは最小限の目標で、白内障手術でいかに付加価値をつけることができるかが注目されています。数年前までこれらは自費診療でお金をかけることで達成されてきましたが、現在では保険診療でも多くの付加価値をつけることが可能となっています。
1つ目は乱視の矯正です。白内障手術を行っても眼には水晶体以外に角膜というレンズがあるのでそこにある乱視は残ってしまいます。その乱視を眼内レンズで打ち消すというものです。2024年は40.7%の方で乱視矯正用の眼内レンズを使用しています。また乱視矯正用の眼内レンズを使用する必要のないくらいの弱い乱視の場合でも、手術時の角膜切開創の位置を意図的に乱視を打ち消す方向に作成することによってなるべく残存乱視を弱めるようにしています。この2つの手技を合わせると、ほぼ100%の症例で乱視の矯正を行っています。
2つ目は老眼治療です。選定療養という枠組みで、手術代は保険診療、多焦点眼内レンズ代は自費という形で老眼治療を行うことができます(2020年3月までは手術代も自費)。またレンティスという2焦点の多焦点眼内レンズはレンズ代も保険診療で賄われることが認められています。これらの治療により術後に眼鏡が必要なくなる方もいます。ただし多焦点眼内レンズにはコントラストの低下やグレア・ハローといった不快光視現象が出る場合もありますので手術前に適応について慎重に相談する必要があります。
3つ目は緑内障の治療です。アイステントという緑内障治療用デバイスは、白内障手術と同時に使用する場合のみ保険診療が認められていて(2025年1月現在)、これにより術後の眼圧低下が期待できます。緑内障の進行を抑制できたり、使用中の緑内障点眼を中止できる可能性があります。治療の侵襲もさほど強くなく、手術時間も5分程度の延長で済みますので、緑内障を合併している方にはアイステント手術併施の選択肢を提示するようにしています。
逆に言うとこれら3つの治療を保険診療内で行うためには、白内障の手術と同時でないと適応されません(2025年1月現在)。また適応さえあればこれら3つの治療を同時に行うことも可能です。白内障手術の機会を白内障治療だけの機会にしないという考え方が広まりつつあるといってもいいのではないでしょうか。